料理が苦手だ。
むかし友人が料理のことを、「カタチの違うものを寄せ集めて、何かが出来上がっていく感じが好き」と言っていた。
「へーそういう見方もあるのか」と思った。
苦手なりに何かしら作らないと生きていけないので、まったく料理をしない日の方が少ないけれど、頭を使う料理ってホント苦痛を感じてしまう。
でも料理本を眺めるのは好きだし、食べることも好き。
お酒を飲むことも好きだから、料理が好きになってもおかしくないのだが、やっぱり作るよりも断然食べる方が好きなのだ。
某レシピ動画を見ながら、料理を作ることが多い私。
パラパラチャーハンを作ろうと思って、料理の匠が考案したレシピを参考にした。
「超簡単でパラパラチャーハンが作れる!」という謳い文句に、目を輝かせながら作り始める。
だって、超簡単らしいですから。
匠は鮮やかな手つきで言う。
「ね、簡単でしょ?これだったら子どもさんでもできるでしょ?」
うん、たしかにこれなら簡単そう。私も匠を真似ていく。
ベーコンが嬉しそうにパチパチ音を立てている。
音に合わせて小躍りしているみたいだ。
料理の音は食欲をそそるから、聞くのは好き。
いい感じに焦げ目がついたベーコンの入ったフライパンへ、ご飯が投入された。
「ここで慌てない!食材の音を聞いて」
匠の注意が入る。
私も意識を集中させる。
食材の音を聞こうと耳をそばだてる。
匠は料理のポイントだけでなく、フライパンの持ち方まで教えてくれる。
説明はわかりやすくて、料理が苦手な人間にも寄り添ってくれて優しいのだ。
「このやり方なら、子どもさんでもお年寄りでも確実にできます」
「ほぉら、パラパラになってきた」
私は匠のフライパンと、自分の手元にあるフライパンの中身を見比べる。
ん。
なんか、違う。
「箸で食べたくても、パラパラすぎて取れないでしょ?」
匠は言う。
私は恐る恐る手元のチャーハンを箸ですくう。
チャーハンは、箸で取られることになんの抵抗もせず持ち上げられていく。
どこで道を間違えたのか、私が作ったチャーハンは水気をたっぷり含んでいた。
仕方なくそれを食卓へ運んだ。
口に入れた夫は言った。
「なんか、おかゆみたいだね」
チャーハンなのに、おかゆ。
私はいったい、なにを作ろうとしていたのか。
「子どもでも簡単にできるレシピですからね!」
匠のセリフが、脳内で繰り返しリピートされる。
なぜか、パラパラの対極にある、ネチョネチョがそこにはあった。